
変形性膝関節症は、膝関節の軟骨がすり減り、痛みや炎症、可動域の制限をもたらす疾患です。
近年、整形外科の分野で注目を集める治療として、PRP(多血小板血漿)を用いた再生医療が挙げられます。
PRP治療は患者自身の血液から血小板を抽出し、有効な成分を濃縮して注入することで、傷んだ組織の修復や炎症の軽減を図る治療法です。
手術や入院を回避したいと考える患者が増えるなか、日常生活に支障をきたす膝の痛みをどう改善できるのか、PRPによる治療効果や具体的な流れ、費用、人工関節との比較などについて解説します。
変形性膝関節症は、主に軟骨の摩耗や関節周囲の組織の変性によって起こる慢性的な膝疾患です。日本では高齢化が進むにつれ、この痛みに悩む患者が増加しています。
進行すると歩行が難しくなる場合もあるため、適切な治療法の選択が重要です。
加齢や日常的な負担によって膝関節の軟骨がすり減り、痛みや腫れが発生します。肥満や運動不足、重労働による膝への過度な負荷も、変形や炎症を進行させる原因としてあげられます。
膝が腫れたり、歩行時の痛みやこわばり感が目立つようになると、変形性膝関節症が疑われます。進行の程度を知るために、レントゲンやMRI検査を受診することが多いです。
病期 | 状態の目安 | 主な治療方針例 |
---|---|---|
初期 | 立ち上がり時に違和感 | 保存治療(痛み止め、運動療法) |
中期 | 歩行時にも痛み | ヒアルロン酸注射、装具、PRP療法など |
末期 | 日常生活にも支障 | 手術(人工関節置換など)を検討 |
従来は痛み止めの内服やヒアルロン酸注射など保存的治療が一般的でした。しかし症状が進むと、手術(人工関節置換術)に至るケースもあります。
PRPによる再生医療は、手術以外の選択肢として新しい位置づけを持ち始めています。
「痛みが続く」「ヒアルロン酸注射や薬を使っても改善が少ない」など、痛みが長期化する場合は早めの診療がおすすめです。
整形外科専門医に相談してPRP治療も含めた複数の治療法を検討し、自分に合ったケアを考えてみましょう。
PRP(Platelet-Rich Plasma)は多血小板血漿のことで、患者自身の血液から抽出して得られる成分です。
血小板に含まれる成長因子が傷ついた組織に働きかけ、痛みの原因となる炎症を抑えたり、軟骨の修復を促すことが期待されています。
血小板には、組織の修復や炎症の軽減に関与する成長因子が多く含まれています。
この成長因子は軟骨や周辺組織の再生を促すだけでなく、痛みを引き起こす原因物質を抑制する働きもあります。
項目 | 内容 |
---|---|
メリット | 患者自身の血液由来なので安全性が高い |
注意点 | 効果には個人差があり、全員に均一に作用するわけではない |
PRP治療では、患者自身の血液を採取して遠心分離機にかけ、血小板を濃縮してから注射します。手術のように大きな切開をしないため、身体への負担が少ないことも特徴です。
タイミング | 経過観察ポイント | 患者の主な注意事項 |
---|---|---|
注射当日 | 注射部位の痛みや腫れの程度 | 激しい運動は控える |
注射後1週 | 痛みの軽減度合い、炎症具合 | 必要に応じて軽度のリハビリ開始 |
注射後1~3か月 | 関節可動域、症状の安定度 | 適度な運動で筋力維持 |
中等度程度までの変形性膝関節症に適応が広いとされています。関節の破壊が進んでしまっている末期段階では、人工関節の選択が考慮されることも多いです。
PRP治療は自己治癒力を応用する再生医療の一環です。人工物を使うのではなく、患者自身の持つ自然な修復力を引き出し、治癒を促します。
副作用が少ないことが特徴であり、多くの整形外科施設で導入が進んでいます。ただし、効果の度合いは個々の状態によって異なるため、主治医と十分に相談することが大切です。
PRPは自分の血液を利用するという点で、アレルギー反応や大きな副作用が起きる可能性が少ないと考えられています。一方、短期間で劇的な改善を求める人には向かない場合があります。
項目 | 解説 |
---|---|
自己由来 | 他人の組織を使わないため免疫反応が起きにくい |
感染リスク | 血液を厳重に管理し、無菌状態で加工する |
投与形態 | 注射のみで対応可能、メスを使わない |
PRP療法は自由診療として扱う医療機関が多く、費用が高い印象を持たれることがあります。治療回数や院の設備によって価格設定も異なるため、費用の相談を行うことが必要です。
PRP注射後、数日間は関節の中に炎症が起きて痛みを感じる場合があります。これは治療効果を引き出す過程の一部ともいわれ、病院によっては抗炎症薬や痛み止めで対処する方法を提供しています。
変形性膝関節症の治療には、PRP注射以外に人工関節置換術という選択肢があります。どちらを選ぶべきかは症状の進行度や年齢、日常生活への支障度合いによって異なります。
関節を人工の部品と置き換えることで、進行した変形性膝関節症にも対応できます。ただし、体への負担は大きく、術後のリハビリ期間も長くなる場合があります。
比較項目 | PRP療法 | 人工関節置換術 |
---|---|---|
対応する症状 | 軟骨が残っている軽度〜中度 | 重度の変形性膝関節症 |
体への負担 | 少ない | 大きい |
治療に要する期間 | 外来で注射、通院で経過観察 | 入院と長期リハビリ |
費用 | 自由診療が多い | 保険診療の適応が多い |
メリット | 自己血液由来、手術不要 | 高度な変形でも対応可能 |
デメリット | 効果の個人差 | メスによる手術の負担 |
整形外科専門医は、レントゲンやMRIの結果を踏まえ、どの治療法が妥当かを検討してくれます。保存療法やPRP注射で改善が少ない場合には、人工関節をすすめることもあります。
医師やスタッフに、以下のような質問を投げかけてみると安心感が高まります。
PRP療法を受けるにあたり、事前の検査や診察、術後(注射後)のフォローアップの流れを把握しておくと安心です。患者が納得しやすいよう、医療機関では費用や期間などを詳しく説明します。
はじめに整形外科外来で問診や触診を行い、レントゲンやMRIを必要に応じて撮影します。PRP治療の適応を判断したうえで、患者と相談しながら治療計画を立てます。
チェック項目 | 目的 |
---|---|
軟骨のすり減り度合い | PRP治療の適応を見極める |
他の疾患の有無 | 手術が必要かどうかの検討 |
日常生活の状況 | 仕事や家事への支障度 |
診察で問題がなければ、実際に採血を行いPRPを作製します。多くの場合は外来で採血後、遠心分離機で血小板を濃縮して当日または後日に注射を行います。
PRPを注射した当日は、膝を大きく動かすスポーツや負荷の高い作業は控えます。短時間の歩行や軽い日常生活動作は問題ありません。
期間 | 内容 |
---|---|
注射後1週〜2週 | 軽めの屈伸運動やウォーキング |
注射後1か月 | 適度な筋力トレーニング、スクワットなど |
注射後3か月〜 | 症状に応じて通常の運動に近づける |
PRP注射後、一定期間をあけて診察し、症状の変化を追います。必要に応じて追加注射を行うケースもあります。
医療機関によってPRPの作製方法や注射回数、費用、診療体制が異なります。カウンセリング時にしっかり確認しておくと、後々のトラブルや疑問を減らせます。
PRP療法は、厚生労働省が再生医療等提供計画として認定した医療機関で行うことが多く、自由診療で行われるケースが一般的です。
保険診療の対象外であることが多いため、費用は高額になりがちです。
医療機関によって異なりますが、1回あたり10万円~30万円程度かかることも珍しくありません。材料費や技術料を含めると、複数回の注射を行う場合にはさらに負担が増えます。
費目 | 具体例 |
---|---|
採血・PRP作製費用 | 遠心分離機や特殊キットの利用 |
注射費用 | 人件費、処置費用 |
診察料 | カウンセリング、検査料金 |
項目 | 保険診療(人工関節など) | 自由診療(PRPなど) |
---|---|---|
費用負担 | 通常3割負担 | 全額自己負担 |
柔軟性 | 標準的な治療法 | 最新の技術や設備を利用可能な場合も多い(※本記事では「最先端」という言葉は避けています) |
選択肢 | ヒアルロン酸注射、投薬、手術 | PRP注射、APS療法、PRP-FDなど |
PRP治療は再生医療の分野とみなされるため、安全性や管理体制が求められています。厚生労働省に特定細胞加工物製造届を提出した施設であるかどうかを確認することが大切です。
費用に不安がある場合、医療機関の窓口やスタッフに相談すると、分割払いの可否や費用の見積もりなどを提示してくれることがあります。
PRP療法についてはまだ歴史が浅い面もあり、患者が疑問や不安を抱えることが多いです。メリットだけでなく、デメリットやリスクも含めて理解することで、納得した治療選択ができます。
一般的に、PRP注射は自己血液を使用するため、大きな免疫拒絶反応や感染症リスクは少ないといわれています。ただし、注射部位が腫れたり痛んだりする軽度の症状はあるかもしれません。
症状の程度や個人差によって異なります。1回の注射でも痛みが軽減するケースがありますが、複数回行って効果を安定させる医療機関も存在します。
即効性はあまり期待できないことが多く、数週間から数か月かけて徐々に改善していくイメージです。PRPは組織修復を促すプロセスなので、ある程度の時間を要します。
軽度の変形性膝関節症の場合、痛みが軽くなったあと徐々に運動量を増やしていくことができます。重度の患者は人工関節手術を検討する場合もありますが、スポーツを楽しむレベルまで回復するケースもあります。医師と連携を取りながら安全に進めることが大切です。
トラブル | 回避策 |
---|---|
思ったより効果が得られない | 事前に過度な期待を持たず、医師と十分に情報共有 |
費用が予想以上にかかった | 事前に見積もりを確認し、支払い方法も相談 |
リハビリ方法がわからない | 病院や外来でリハビリ指導を受ける |
PRP変形性膝関節症治療は、患者自身の血液を使い関節の痛みを軽減する再生医療です。痛みの原因となる炎症を抑え、軟骨組織の修復を促すことで、長期的な効果を狙うことができます。
一方で、医療費や効果の個人差などの課題もあるため、無理せず自分の状態と照らし合わせて検討するとよいでしょう。
膝の痛みは日常生活の質を大きく左右します。PRP注射や人工関節置換術など、複数の治療法を比較して、長期的な視野で考えることが必要です。
状態 | 影響 |
---|---|
進行して歩行困難に | 社会活動の制限、要介護リスク |
痛みで運動不足に | 体重増加、生活習慣病のリスク増 |
患者の状態や希望を踏まえたうえで、医師と相談して診療計画を組むことが重要です。必要に応じて、リハビリや装具など、他の保存療法とも組み合わせて効果を高められます。
PRP療法は、変形性膝関節症の新しい治療法として多くの患者に利用されています。
将来的には、他の再生医療技術(例:APS療法、PRP-FDなど)との組み合わせも検討され、より痛みの軽減を目指したアプローチが広がる可能性があります。
以上
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