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PRP注射 – 膝の痛みに向き合う治療法

PRP注射 – 膝の痛みに向き合う治療法

膝の痛みに悩む方の中には、変形性膝関節症をはじめとする関節疾患で思うように日常生活を送れない人が多くいます。

PRP注射は、自分の血液を使って関節の組織修復を促す再生医療のひとつです。

ヒアルロン酸注射や保存的なリハビリでは効果が少ないケースでも、この治療法なら痛みの改善や機能回復が期待できます。

本記事ではPRP注射の具体的な流れや効果、費用などをできるだけ詳しくお伝えします。

膝の痛みをもたらす関節疾患とPRP注射の概要

膝の痛みは、進行すると日常生活に大きな不便が生じます。治療の選択肢を検討するうえで、PRP注射の概要を正しく理解することが大切です。

膝の痛みが増える理由

膝は体重を支える大きな関節です。軟骨がすり減ったり、靭帯や半月板が損傷したりすると慢性的な炎症が起こり、痛みや腫れが続きます。

特に変形性膝関節症は軟骨の変形や進行が特徴で、初期段階では階段の上り下りや立ち上がり動作で痛みを感じるケースが多いです。

変形性膝関節症と症状の進行

変形性膝関節症は、膝軟骨がすり減り、関節が変形していく病気です。痛みと腫れが繰り返し発生し、進行すると正座が難しくなる、歩く距離が短くなるなど生活の質が低下します。

保存療法や薬物療法、人工関節置換手術など複数の治療法がありますが、近年は再生医療としてPRP注射が注目を浴びています。

再生医療の重要性

再生医療は、自己の血液や細胞を活用して組織を修復する治療で、副作用のリスクが比較的少ないです。

膝関節ではPRP注射を用いることで、炎症を抑え、痛みの軽減や機能改善を目指します。患者自身の血液を採血して濃縮するため、アレルギー反応や感染症リスクが比較的低い点も魅力です。

PRP注射と多血小板血漿の働き

PRP(Platelet-Rich Plasma)とは、血小板を高濃度に含む血漿のことです。

血小板は血管の修復や組織の修復を促す成長因子を多く含み、炎症をやわらげ、損傷した組織の回復を助ける作用があります。

PRP注射ではこの働きを活用し、膝関節の痛みの軽減や軟骨修復を狙います。

小さなまとめ表:PRP注射で使用する血液成分

血液成分役割・特徴
赤血球酸素を運ぶ
白血球免疫反応を担う
血小板損傷部位で血を固める・成長因子を放出して組織を修復
血漿水分・タンパク質を含み、血球を運ぶ

PRP注射による治療の流れ

膝のPRP注射は、採血から注入までのフローが明確です。患者への負担が比較的少ない手技ですが、適切な診断と計画が大切です。

診察から採血まで

整形外科の医師が膝の状態を診察し、レントゲンやMRI検査で変形の程度や靭帯の損傷を確認します。

治療が可能と判断したら、患者自身の血液を採血して、血小板を濃縮します。院内では清潔な環境で処理を行い、細胞加工物の品質を保つことを心がけます。

診察時の主なチェック項目

  • 膝の曲げ伸ばしや関節の動き
  • 痛みの強さと部位
  • レントゲンまたはMRIで軟骨や靭帯の状態を画像評価
  • 患者の既往症や現在の服用薬

血小板の濃縮

採血した血液から、医療機関の設備で血小板を分離・濃縮します。高濃度にした多血小板血漿を得るために専用の機器を使用し、必要量のPRPを調製します。

採取から注射までの時間を短く保つことで、血小板の活性をより高い状態で膝関節に注入できるようにします。

関節への注射

高濃度に調製したPRPを膝関節に直接注入します。ヒアルロン酸注射では届きにくい修復因子を、傷んだ組織に集中的に供給するイメージです。

注射直後は多少の違和感を覚える人もいますが、多くは軽度で日帰りが可能です。

小さなまとめ表:PRP注射のフローと所要時間

ステップ所要時間の目安主な流れ
1. 初回診察・検査約30分~60分レントゲンやMRI等、問診、適応の確認
2. 採血約5分~10分血液を数十mL程度採取
3. 血小板濃縮処理約30分~60分医療機関の設備で血小板分離・濃縮
4. 注射約5分~10分膝関節にPRPを注入
5. 経過観察・通院個人差あり痛みや炎症の状態を確認、必要に応じた再注射

注射後の経過観察

注射後は痛みの軽減や炎症が落ち着くかを確認します。1回のPRP注射で十分な効果を実感できる人もいますが、症状が強い場合は複数回注射を行うこともあります。

痛みがある程度緩和すれば、リハビリテーションなどを組み合わせて機能回復を目指します。

PRP注射の効果と期待できる改善

PRP注射は痛みや炎症を抑える効果が期待でき、患者の負担を軽減します。軟骨の再生や組織修復を促す作用も注目されています。

痛みの軽減と炎症抑制

多血小板血漿には成長因子が含まれ、損傷組織の修復を促すだけでなく、炎症を和らげる作用も期待できます。

ヒアルロン酸注射だけでは抑えにくかった慢性の痛みでも、PRP注射で軽減するケースが報告されています。

PRP注射後の変化による患者の声

  • 「膝の腫れがやわらいで曲げ伸ばしが楽になった」
  • 「痛みで夜中に目覚めることが減った」
  • 「定期的な通院で関節の機能が維持しやすくなった」

軟骨修復へのアプローチ

変形性膝関節症では軟骨が損傷しているケースが多いです。PRP中の成長因子には軟骨細胞の増殖を活性化する働きがあり、修復を促進すると考えられています。

ただし重度に変形した膝関節の場合は、人工関節置換手術など他の治療との組み合わせが必要です。

スポーツや日常生活への復帰

関節の痛みが落ち着くことで、スポーツなどの運動機能の回復が期待できます。適度な筋力強化やリハビリを並行して行うと、膝の可動域を保ちやすくなり、再発予防にもつながります。

PRP注射が期待できる主な疾患・症状

疾患・症状PRP注射の期待
変形性膝関節症軟骨修復や炎症抑制
半月板損傷損傷組織の修復作用を促す
膝蓋靭帯炎・鵞足炎など腱の損傷成長因子による炎症の軽減と回復
オスグッド病など若年性痛み痛み抑制と組織回復

合併症や他の疾患に対する注意点

痛みの主な原因が変形性膝関節症だけでなく、関節リウマチなど免疫性疾患や感染症による場合、PRP注射だけでは効果が限られます。診療時の適切な検査と診断が大切です。

副作用やリスクへの理解

PRP注射は、再生医療の手技としてリスクが少ないといわれています。しかし全くのゼロではありません。

副作用の可能性

自己血液を用いる治療とはいえ、注射部位での軽い腫れや痛み、内出血などが起こる可能性があります。膝の関節内に注入するため、感染対策も重要です。

医療機関で無菌操作を徹底すれば感染リスクを抑えられますが、症状が続くときは早めに医師へ相談します。

注射後に起こりやすい症状

  • 注射部位の腫れ
  • 注射時の疼痛
  • 微量の出血
  • 関節の軽い違和感

ヒアルロン酸注射やステロイド注射との違い

ヒアルロン酸注射は関節液の潤滑を補い、炎症や痛みを和らげます。ステロイド注射は抗炎症作用が高いですが、繰り返し使うと軟骨がかえって傷むリスクがあります。

PRP注射は患者自身の血小板を使って修復を促す点が大きな特徴です。

各種注射療法の特徴

治療法メリットデメリット
ヒアルロン酸注射潤滑・痛みの緩和効果が一時的、重度には向かない
ステロイド注射炎症を素早く抑えやすい繰り返すと軟骨にダメージが及ぶ
PRP注射自己血液でアレルギーが少ない可能性高額で保険適用外が多い

医療機関の選び方

PRP注射を行うには厚生労働省への届出が必要です。

再生医療の知識がある整形外科やクリニックで、経験豊富な医師がいるか、十分な説明やアフターケア体制が整っているかを確認すると安心です。

活動制限とリハビリの必要性

注射後は数日程度、膝の負担を減らすように心がけると血小板の作用が働きやすくなります。

痛みの状態が落ち着いてきたらリハビリや筋力トレーニングを行い、膝関節への過度なストレスを避けながら生活の質を高めましょう。

費用と自由診療の扱い

PRP注射は保険診療の対象外のことが多く、自由診療として扱われます。費用面は注意が必要です。

自由診療の料金形態

多くのクリニックでは採血・調製・注射をセットで数万円〜数十万円の費用を設定しています。回数や使用する機材によって価格が異なります。

クリニックによっては分割払いなどの支払い方法を用意している場合もあります。

PRP注射にかかる費用の目安

治療項目費用の例
初診・検査(レントゲン・MRIなど)数千円〜数万円
PRP注射(血液採取・調製・注入)数万円〜数十万円
再注射数万円程度
リハビリテーション時間・内容により変動

費用に含まれる内容

上表のように、初診料や検査費、PRPの調製費が含まれるケースが多いです。

ただしクリニックによって費用の内訳に違いがあるので、事前に料金を確認し、納得したうえで治療を進めることが重要です。

保険診療との併用

変形性膝関節症の治療では、ヒアルロン酸注射や投薬など保険が適用される方法を並行して受けるケースがあります。

PRP注射は自由診療のため、どちらも受ける場合は併用になる点を理解しておくと良いでしょう。

小さなリスト:費用の相談時に確認しておきたい項目

  • 注射や採血以外にかかる検査代
  • 追加注射を行う場合の費用
  • キャンセルや再来院にかかる費用
  • 支払い方法の種類(現金、カード、分割)

継続治療とコスト

PRP注射による効果は徐々にあらわれます。複数回注入が必要になったり、リハビリを続けたりすると費用が増える可能性があります。

長期的な治療計画を立てて、十分に検討してから治療を開始すると安心です。

よくある質問と相談のタイミング

PRP注射はまだ保険適用が一般的ではないため、不安や疑問を抱える方が少なくありません。よくある質問や相談のタイミングを把握しておくと安心です。

よくある質問

  • 「ヒアルロン酸注射が効かない状態でもPRP注射の効果が期待できる?」
    • 自身の血液を使うPRP注射は修復と炎症抑制を狙えます。ヒアルロン酸で効果が得られなくても試す価値があります。
  • 「注射後すぐに歩くことはできる?」
    • 痛みの程度にもよりますが、基本的には日常生活程度の動作は可能です。
  • 「他の治療と併用しても問題ない?」
    • ただちに問題が起こるわけではありませんが、主治医と相談しながら計画を立てる必要があります。

質問と回答

質問回答
血液を何mL採取しますか?患者の体格や膝の状態にもよるが、およそ20〜50mL程度が多い
効果はどれくらい続きますか?個人差があるが数カ月〜1年以上などさまざま
副作用が心配です。自己血液を使用するためリスクは比較的少ないが、感染や腫れなどが起こる可能性はある
何回注射が必要ですか?痛みや炎症の度合い、組織のダメージの程度による。1〜3回程度で落ち着くことが多い

相談のタイミング

整形外科や専門クリニックを受診し、痛みの原因や関節の状態を確認します。

変形性膝関節症と診断された方、ヒアルロン酸注射や保存療法で十分な効果が得られなかった方はPRP注射も選択肢として考えられます。

どのタイミングで治療を始めるかは、医師とよく話し合ってみてください。

通院回数やスケジュール

PRP注射は複数回にわたる通院が必要な場合があります。採血と注射を別日に分けるクリニックもあれば、同日に処理まで行う所もあります。

事前にスケジュールを確認し、無理のない通院計画を立てることが大切です。

治療計画時に確認する項目

  • 痛みや変形の進行度合い
  • 治療にかかるおおよその期間
  • 通院頻度とリハビリの内容
  • 治療の優先度と予算

他の治療と併用するメリット

変形性膝関節症の場合、日常的なリハビリや生活習慣の改善、体重コントロールなども重要です。PRP注射だけでなく、リハビリを並行することで、痛みの軽減と再発予防につながります。

治療後のリハビリと再発予防

PRP注射を受けたあとのリハビリやセルフケアは、痛みの軽減や再発予防に大きく寄与します。

適度な運動と筋力強化

膝関節に負担をかけず、正しいフォームで筋力を高めることが大切です。大腿四頭筋やハムストリングスの筋力が低下すると、膝への負担が増してしまいます。

痛みが強い場合でも、専門家の指導を受けながら段階的にエクササイズを取り入れると良いでしょう。

膝のリハビリで行いやすい運動例

運動名方法効果
膝伸展トレーニング椅子に座ったまま、片足ずつ伸ばす大腿四頭筋を鍛え、膝の安定性を向上
スクワット膝に過度な負担がかからない範囲でゆっくり行う下半身全体の筋力を高める
かかと上げ壁などに手を添え、かかとをゆっくり上げ下げする下腿筋を鍛え、下肢の血行を促進
ウォーキング無理のないペースで歩く有酸素運動で筋力と持久力を維持

生活習慣の工夫

膝に負担がかかりすぎる姿勢や動作を避け、体重管理を意識すると症状が落ち着きやすくなります。

足に合った靴を履き、必要に応じてサポーターやインソールを活用する方法も考えられます。

カウンセリングとモチベーション維持

治療の経過には個人差があります。思うように痛みが減らないときも、医師や理学療法士と相談しながら継続して取り組むと結果が出やすいです。

周囲のサポートも重要なので、家族や友人に協力を依頼することもおすすめです。

自宅で意識したいセルフケア

  • 膝の安静と無理のないストレッチ
  • 気軽にできるアイシングや温熱療法
  • バランスの良い食事で栄養をとる
  • 足の冷えを予防して血流を保つ

再発予防のポイント

PRP注射で一時的に痛みが治まっても、運動不足や肥満などの要因が続くと再び痛みが増すおそれがあります。

継続的なリハビリや体重管理を心がけることで、膝関節の健康を保ちやすくなります。

まとめと相談先

PRP注射は変形性膝関節症などの膝の痛みの新たな治療法として注目が高まっています。自己の血液を用いるため、比較的リスクが少なく、軟骨や靭帯などの組織修復に寄与すると考えられます。

ただし自由診療で費用が高額になりやすい点や、軽減効果に個人差がある点は十分に理解したうえで治療を受ける必要があります。

相談先と受診の流れ

多くの整形外科クリニックや大学病院の再生医療部門でPRP注射を導入しています。下記に相談時に確認しておきたい情報を示します。

受診前に確認したい項目

項目内容
クリニックの実績PRP注射の施行数や治療成績
担当医の専門分野再生医療や膝関節の専門医であるか
料金体系説明を受け、納得できるか
治療スケジュールと通院回数仕事や家事の合間に通えるか
リハビリやサポート体制専門スタッフによるケアやアドバイスの有無

次の一歩

PRP注射は、保存療法やヒアルロン酸注射で思うように効果が得られなかった方に新たな可能性をもたらします。

痛みを放置すると変形や炎症が進むことが多いので、早めに整形外科で検査を受けてみてください。状況に応じて最適な治療法を選択し、必要に応じてPRP注射を検討すると良いでしょう。

以上

参考文献

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